返って来なくなったメール。
5月中旬を過ぎた頃に、妻の洗濯物の受け渡し袋の中に使いかけのケチャップやマヨネーズなどが返されて来ました。基本的に和食で味付けが薄味の病院食ですので、妻の求めに応じて妻の弱くなった握力でも押し出せるように、柔らかい容器に移し替えて定期的に差し入れていた品です。この頃から定期的に届いていた自分を励ましてくれる妻からの携帯からのメールも届かないようになり、欲しい物を尋ねるメールにも返信もあまり返って来ないようになりました。中旬の娘の誕生日にはメールが届いたようですが、メールを打つのもかなり辛くなってきているのは明らかでした。妻から何の言葉やメールもなく、ケチャップやマヨネーズが返されてきた事に胸騒ぎを感じていましたが、容器をもっと柔らかい物に変えてみようか、担当の看護師さん達に妻の様子を聞いてみようかと思案していたところに、主治医から自分と面談をしたいとの申し入れがありました。
食事を取られていません。リハビリもされなくなりました。
約束の時間に病院に向かい、面談室で主治医の先生とお話をさせて頂きました。妻のALSの症状が進むのが早く、自力では食事が出来なくなっている事や、あれだけ熱心に頑張っていたリハビリも行わなくなっている事を聞かされました。事前の話し合いで妻は一切の延命治療を断っていましたが、チューブを使っての流動食も断り、水や果汁などの水分以外は何も口にしなくなっているとの事でした。後日に病院が指定した厳重なコロナ禍対策を講じた上で、妻との直接の面会を許可してもらえた際に、何とか食事を取ってくれるように話してみようと思いましたが、妻の目を見た瞬間に彼女の強い意志が伝わり、食べたい物や飲みたい物があったら遠慮なくリクエストして欲しいと言うのが精一杯でした。暫くぶりに逢えた妻は瘦せてはいましたが、相変わらず凛として綺麗でした。
息子との面会。最後の別れ。
主治医との面談の中で、このまま水分以外のものを取らない状態が続いて行けば余命は1ヶ月前後だろうと告げられました。今のうちに妻が会いたい人が居れば厳重なコロナ禍対策を講じた上で、面会を許可する方向で検討してみますとおっしゃって下さいました。妻にお母さんや姉妹に会わなくてよいか?自分と娘が何度か日にちを空けて尋ねましたが、会いたくないわけがないのは分かってましたが、妻の答えは一貫して自分と娘と息子だけで良いとの返事でした。妻の食べ物や飲み物のリクエストは季節の旬になっていない果物や果汁100%の物でなかなか手に入らずスーパーを捜して回ったりネットで捜したりしました。6月中旬に息子が今回は一人で、何とか仕事の都合をつけて面会に帰省する事になりました。結果的に息子にとって、これが母との最後の別れになりました。