マンション法が改正されました。(2025年5月23日国会成立)

1.集会での議決を出席者の現状に合わせた

これまで区分所有権の処分を伴わない事項(管理や修繕等)に関する決議では、「全区分所有者」の多数決が必要でした。そのため所在不明の所有者がいる場合、意思決定が滞ることが問題になっていました。改正案では、裁判所の許可を得ることで「所在不明の所有者を決議の母数から除外」できるようになりました。さらにすべての決議において、「集会出席者」の多数決に緩和されます。例えば5人のマンションオーナーが在て、2名が欠席だとすれば従来の方式では2名の方が賛成しても「賛成5分の2」のため否決です。しかし法改正により、所在不明者と欠席者を除外できるため「賛成3分の2」となり可決されます。これにより集会の出席者による多数決で修繕などの決議が可能となり、迅速な意思決定が従来より計れます。

2.マンション事例に合った財産管理制度

老朽化したマンションの中には、管理組合が充分に機能しておらず適切な維持管理が行われていない場合がありました。​改正では管理不全の専有部分や共有部分に対し、裁判所が専門の管理人を選任して適切な管理を行う制度が創設されます。​これにより管理不全のマンションにおいても、専門家の関与による適切な維持管理が期できます。

3.建て替えや大規模な修繕を実現出来るように

これまでマンションの建替えや大規模修繕の決議要件には「全員の同意」が必要とされており、合意形成が難しい状況がありました。しかし今後は、要件緩和により建物・敷地の一括売却や一棟リノベーション、建物の取壊し等を促していく方針です。具体的には、下記の割合での賛成による多数決決議が可能となります。

建物・敷地の一括売却や一棟リノベーション、建物の取壊し:5分の4
耐震性不足等:4分の3
政令指定災害による被災:3分の2

マンション法が改正されるに至ったバックボーン

マンション居住者の増加近年、都市部を中心にマンションの建設が進み、多くの人々が居住するようになりました。現在マンションの総数は約700万戸で、国土交通省によると「国民の1割以上が居住する重要な居住形態」とされています。しかし築40年以上のマンションは全体の約2割(約137万戸)で、世帯主が70歳以上は5割以上となっています。さらに今後10年で2倍、20年で3.4倍になることが想定されています。マンションは、建物自体の老朽化居住者の高齢化という「2つの老い」に直面しています。建物の老朽化に対しては修繕や建替えの必要性がありますが、居住者の高齢化によって管理組合の運営や合意形成が困難になっているのが現状です。従来の区分所有法では、マンションの重要な決定事項において全員一致や高い同意率が求められ、合意形成が難航するケースが多く見られました。とくに所在不明の所有者がいる場合や意見が分かれる場合には意思決定が停滞し、適切な管理や再生が困難になっていました。そのため、迅速かつ円滑な意思決定を可能にする法改正が求められていました。

マンション法(区分所有法改正等)の改正でも残る課題

今回の改正により、マンションの抱える問題解決が進むことが期待されますが課題は残っています。未来に向けての更なる改善が求められています。法改正により、意思決定のスムーズさや管理制度の強化が図られましたが、区分所有者の経済的負担が直接に軽減されるわけではありません。建替えや修繕の決定がスムーズになっても、費用負担は区分所有者が担うことに変わりありません。とくに高齢の居住者や経済的に厳しい方にとっては、修繕積立金や一時負担金の増加が大きな負担となる可能性があります。 法改正で建替えや敷地売却の決議要件が緩和され、決議が可決されたとしても・資金調達・権利調整・住民の転居先の確保など多くの課題は残ります。現在の建設コストの上昇に加えて再開発業者の確保が難しい場合、実際の建替えまでに長期間を要することも起こり得ます。法改正だけでなく、行政の支援や補助金制度の充実等の施策も求められると考えられます。

行政書士 辻賢一事務所」 マンション管理士 特定行政書士 辻賢一